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>>> some words? = thinking (or sinking)

2012 >>> 2020 >>> 2021 >>> 2022 >>>『Nostalgie d'une Porte Ouverte』に寄せて

年末進行の真っ只中、皆さま方に置かれてはいかがお過ごしでしょうか。今年は去年に比べてより一層何もしていなかったなあ…と感じている僕ですが、それでは本当に全く何もなかったかというと、当然そんな訳でもありません。最近僕に起こったこととしては、長い間使用してきたiMacおじいちゃんのことに触れない訳にはいかないでしょう。というのも、彼がとうとう瀕死の状態に陥りまして、LogicはもちろんのことiTunesが開かなくなり、更にはネットを見るのすらもの凄く時間がかかる…なんてラインはとうに過ぎ、スリープ状態から起動するのに大凡10分近くかかる、しかも起きることなくそのまま寝ちゃうなんてことも多々ある有様でございました。前まではそんな気紛れも可愛く思えていましたが、最近のそれの度合いたるや凄まじく、必要な時に全く動いてくれないことはフラストレーションではなく本気の心配に直結してしまい、体調悪いの?大丈夫?ゆっくりしていなよ!マイペースで良いから!とこちらは極めてbe coolを意識的に努めるようにし、実務が生じてくる場合は主に持ち運びで使っているMacBookくんでなんとか対応してきました。なのですが…このMacBookくんもOSアップデートしてからドドっと調子が悪くなってしまいまして、熟慮の末ダウングレードしたらある程度までは回復してくれたものの以前の快活さは遠ざかり、たまに咳き込んだりしている風でもあって、そうなると負荷をかけるような仕事をするには及び腰にならざるを得なかったのです。

そんな諸々を踏まえれば、総合的に、客観的に、俯瞰的に、大局的に、戦略的に、あらゆる神の目を用いても買い替えどきがとっくに来ていることは言うまでもなく、悶々とした気分の中で数週間を過ごし、アップルのホームページを見てヨドバシカメラビッグカメラノジマに何度も足を運んで…を幾たびも繰り返していましたが、ある日突然悟りが開けまして、ええいっ!と勢いを付けてとうとう購入しました!いっちゃん新しいiMac!なんか急にオシャレでポップになったやつ!スペックはギュインギュインに上げましたが!いえい!いえいいえい!


と、少しの間はしゃいだのは良いものの、やはり後ろ髪を引かれる感覚はあり、それは当然iMacおじいちゃんのことです。ベイビーを購入してしまったとなれば、必然的にiMacおじいちゃんの中にあるデータの整理やバックアップが必要になります。それはそのまま「君と別れる」宣言を意味する訳ですからおじいちゃんからすれば溜まったものではないでしょうが、かく言う僕だってそんなに冷静ではいられません。気付けばもう10年近い付き合いだったLate 2012モデルのiMacおじいちゃん。昔はベイビーだった彼がおじいちゃんになる過程を見届けてきました。初めて買ったアップル製コンピュータに対して不安だった僕に、いつだって優しく応えてくれた君。君がいなかったら実現してこなかった沢山の物事が頭の中でバウンスしているよ。かつて君に尋ねたことがあったね、頑張って調べてみるから、中身をクリーンアップしてもっと長生きしようよ、もっと沢山僕と一緒に過ごそうよ、と。しかし君は目尻を優しく下げ、その皺の線の交わりの中に迫り来る死を描きながら、ただただ静かに首を振ったね………それはできんのだよ、新しい思い出はこれからやってくる新しいベイビーの為にあるものなのだから、とちょっとお節介気味に口にして。おじいちゃん…

さて、新しいベイビーが来るのが翌日にまで迫ったあの日はそう12月7日、最後になるであろうバックアップ作業をしよう…とおじいちゃんをスリープから立ち上げようとしました。が、目が覚めるのがいつもより格段に遅い…というか、もう目を覚ましたくないと駄駄を捏ねているようで(そうまるでおじいちゃんおばあちゃんが生まれたての赤ん坊と変わらず見えるあの瞬間のように)、全く起きてくれようとしてくれません。それどころか気配すらないのです。いくら試みてもダメそうなので、胸騒ぎを覚えつつ今度は再起動してみます、が、再起動に突入するのすら力がないのか動いてくれないおじいちゃん…もうこの時点で僕の動悸はどんどん激しくなっている訳ですが…何十回か指示をしてようやくクローズし、お願いだよお願いだよと手を合わせながら立ち上がるのを待ちます。おじいちゃんはシャットダウンすることこそ時間がかかりました、が、立ち上がりに関しては比較的スムーズに進んだのでホッと一息。ところがところがところが。白バックにアップルのロゴが浮かび上がり、パーセンテージを示すゲージが8割まで進んだ瞬間に、画面が黒に転じます。初めは、このまま少し待てば立ち上がるのだろうなと考えていたのですが、いくら待っても画面に変化がなく、再び高じてきた動悸と主におじいちゃんに触れると、全く動いていません。排気音もありません。およよよよ、と慌ててもう一度電源を押してみますが、全く同じところで画面がブラックアウトします。ああこれは…と涙を必死に堪えつつ、何度も何度も試し、ダメで、何十回もボタンを押し、同じ回数分ダメで、もう後半は助からないことを認識しながら阿呆のように試し続けていました。どれだけそうしていたかは分かりません。しかしどこかのタイミングで、自分自身のするべきことが変化したことを悟った僕は、おじいちゃんの身体をハンドモップで掃除し、画面を丁寧に拭き、最後に電源ケーブルを抜きました。あらゆる死に共通なことかもしれませんが、最後の瞬間そのものよりも、それを待つ時間や、それを受け入れる時間の方が人間には堪えるものなのかもしれないと、ぼんやり考えながら。


で。翌日に颯爽と届いたiMacベイビーを早速セットし、辛うじて外付けHDDに残っていたデータの移行作業になんと6時間強かかって辟易としつつ、準備がようやく終わってあれこれみたら、ま~~~~~~~~~~~~~~サクサク動くこと。なにこのスピード感!テレパシー?って思うくらいにスムーズ過ぎて、逆に怖くなっちゃうくらいです。しかしこれぞモダンライフの一環ですから、跳ねるようなキータッチでこれを入力している訳でございます。これから先のことも踏まえれば、今年起こった良いことのひとつはこれになるのかもしれません。おじいちゃんとの別れは未だ寂しいのですが、ベイビーが来てくれたことでそれを埋め合わせできるのでしょうか。どれだけ先の見えないことと不安が連続していても、そこには常に希望的なことが多少は残されており、却ってそれに疲れたりもしますが、なんとなくそれらとの距離感を決めかねながらも静かに日々を過ごしております。云々。



さて前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。おじいちゃんではなくベイビーを駆使しながらこれを書いているのは、今年の僕がどうにかやって来たことの結末のひとつをお知らせしたいからに他なりません。弊レーベルであるBabera Recordsから、Joni Void + N NAOによる『Nostalgie d'une Porte Ouverte』を来年の2月2日にリリースすることになりました。カセット版・デジタル版の2形態をBandcampにてリリースします。別途実店舗での取扱いが決まった場合は順次Twitterなどでお知らせしていきたいと思います。ストリーミングの予定は現状ありません。


大凡僕の問題に起因する諸般の事情でズレにズレまくり、去年出す…予定が延びに延び…ようやく駆け込みで年内リリース…と思ったら本当に少しだけ間に合いませんでしたが、とりあえず完成できました(ホント良かった…)。そもそもの発端は、毎度おなじみmiddle cow creek fallsこと朝倉さんからJoni Voidを紹介して頂いたところからなので、去年からスタートしていた話がこんなことになってしまいました。サイキックなジーニアスであるJoni Voidとは『verbena (for john and sarah)』[BABERA02]に参加してくださって以来の付き合いで、コンピが出た後もゆっくりとやり取りを続けていたのですが、多分ダメだろうな………と思いながらもレーベルから何か出してみませんかと聞いてみたところ、割とすぐオッケーの返事が来て、これなんかどうだろう…と彼が送ってくれた作品が今回リリースする『Nostalgie d'une Porte Ouverte』でした。本作は、彼が現在住むカナダはモントリオールで活動している声楽の実験音楽家=N NAOとのコラボレーションワークで、これまでも彼ら自身や他のレーベルからたくさんの作品がリリースされてきているのですが、そのうちのひとつがBabera Recordsからリリース…という非常に光栄な運びとなりました。


マスタリングは前述したmiddle cow creek fallsこと朝倉さんに担当頂きました。Babera的にすっかりお馴染みであるこの選択ですが、朝倉さんが一番物事を頼みやすいエンジニアさんであることだけがその理由という訳ではありません。ここには本作の冒頭のトラックがmiddle cow creek fallsの楽曲である”nostalgia of when you open the door”からサンプリングされていることが関係しています。Joni Voidとやり取りしていればすぐさま、彼からmiddle cow creek fallsへの賛辞を感じ取ることが出来るはずです。もともとコンピの話もふたりの心的な繋がりがあったからこそ実現したのであり、そういったことも踏まえれば当然、本作のマスタリングを担当するのは朝倉さんであるべきだと思い、この度もお願いをした次第でした。


朝倉さんは昨年から三重のスタジオ=nostosを運営しています。コロナ禍でのオープン…ということでかなり心配されていましたが、蓋を開けてみれば順調に仕事できていて、むしろ最近は忙しいとのことで喜ばしい限りです。そんな最中、かなり飛び込み的にお願いしたマスタリングでしたが、嫌な反応もせずお願いを聞いてくださってどうもありがとうございます。朝倉さんとも今年これやろうあれやろうみたいな話をしていましたが、それもいずれ形になれば素晴らしいなあと思います。三重にも行きますね(後半は私信です)。

アートワークはイラストレーターである三上唯さんに提供頂きました。幻想的でドリーミング、温もりを随所に感じるイラストを描かれる作家さんで、以前から作品をお見受けする機会が度々あり、いずれ何かお願いできないかな…と朧気に考えていたところ、本作にちょうど良いのでは!と閃いてしまい、善は急げで早速お願いしてみたところ、すぐに承諾頂くことができました。とても感謝しております。


Babera Recordsのアートワークは、「聴いてみて頂いた上でそのイメージに合うものでお願いします = 僕からはこうしてくださいという指定を一切しません」という(良く言えば自由度の高い、悪く言えばノープランな)方針で依頼しておりまして、今回のリリースもそのように三上さんにお願いしたところ、嫌がるどころか面白そうですねと乗り気でやって頂けたこともとても嬉しく、また非常にありがたかったです。こういう抽象的な作品にはアートワークも抽象的でエッジの立ったものが当てはめられる傾向が強いですが、三上さんはあの音楽に一種の温もりを感じられたようで(この辺はベーシックな人間性や感受性も大きく関わっているように思います)、いくつか頂いた作品はどれもしとやかな優しさを感じさせるものばかりでした。これは所謂実験音楽愛好家の視点とは少し異なるものであり、Joni Void・N NAO両者の他の作品群のアートワークと比較しても非常にユニークになったかなと感じています。とても素敵です。


さて、昨今のコロナ禍においてアーティスト活動へ負荷のかかる状況を鑑みれば、当然のことモントリオールで買う機会があればですが、Joni Void + N NAO当人から購入することも大変素晴らしく乙なことではなかろうかと思いますし、個人的にはそれがベストの選択かなとも思います。とは言え、日本在住の方がモントリールにわざわざ行くことはそもそもハードルが非常に高いですし、現状ではカナダ在住の方ですら難しい選択肢のひとつであるでしょう。そして何より、お金を落とすところはあなたが自由に決められることです。どこにお金が落ちようと作品を買って頂いた皆さまに平等に感謝を申し上げます。僕が言いたいことは、即ちそういうことです。



調性と非調性、あるいは緊張感と緩和の揺り戻し───こんな具合に表現できそうなJoni Voidの作品の特徴は本作にも顕著です。カナダDIYミュージックの名門=Constellation彼自身のレーベル=Everyday Agoなどから出ている彼の作品を聴いたことがある方なら、それらと本作との間にある共通点にたちまち気が付くでしょうが、その一方でこれが彼ひとりの作品ではなくコラボ作である、ということもよく分かるのではないでしょうか。その所以は、ところどころに彼のトレードマーク的なサウンドであるヒッチコックの『鳥』のような電子音楽最初期を思わせるシンセ音、あるいはピッチがずれていたりノイズまみれの音素材が顔を覗かせる中、N NAOの澄んだ声が随所で聴こえてくるから…という端的な理由に留まらず、彼の作品に顕著に存在する時間軸の揺れ / 撹乱の要素が潜まり───いやそれどころか、かなり明確に、そして意図的に時間軸が設定されているような感覚が色濃いからではないかと推測します。この作品を終始貫く意思が「ふたりの作品」という印象をより強くしていくのでしょう。また本作に「リアルな」時間を感じるのは、彼らの音楽のベーシックの状態が「演奏する」ことを軸として設定されていることも大きく関係しているはずです。ここにあるのはふたりの卓越した演奏家の瞬間的な会話のやりとりの蓄積であると踏まえると、この音楽の聴こえ方も少し変わってくるかもしれません。

音楽そのものの魅力は、実際に聴いてみて頂いて各々の胸の中で咀嚼してみて頂きたいと切に願っております。ここにあるのは深淵な謎めきに伴う思慮であり、全ての扉は開かれていますが、そこに感じ取るものはそれぞれに異なるだろうと思うからです。と言いながら、ひとつだけ蛇足的にコメントをすると、忘れられないのは三上さんとのメールのやり取りの中で彼女の口から自然と出て来た「サウンドトラック」という表現でした。これまでのレーベル作品でもこの表現が使用されることが度々ありました。実際、映像換気的である音楽が「サウンドトラック」の形象を授けられることは珍しいことではなく、すごくシンプルに言えば「たくさんの音が出ては消えていく」という構造によって齎される刹那的な趣が映像に酷似しているからであり、その大小問わないドラマチックな波や揺れが言葉の意味合いを肉付けしていくのだろうと思います。しかしながら、それだけでは説明できないのがノスタルジーについてです。実のところ、僕たちは音楽から経験したことのない風景や匂いを感じ取ることが多々あります。そうなると、同じ情景を見たことがないはずの人間たちが総じてひとつの音楽を「サウンドトラック」と示す時、そこには自分の中だけではなく総体的に蓄積される懐かしさの経験がある、というのは言い過ぎなのでしょうか。この作品をきっかけに、最近はそんなことを考えたりしています。



併せて、僭越ながら僕個人の作品である『an jsfahhann (reoverboard)』もカセットをリリースすることにしました。こちらは今この文章が公開されているタイミングで既にBandcampにて購入可能です。デジタル版は去年の秋に既にBandcampでリリースしており、フリーダウンロードで今も聴くことができます。リリースした際に「来年の春には…」とか言っていたのも関わらず気付けば12月にまで至ってしまいましたが、カセットをようやく作れたことは非常に感慨深く、個人的な達成でもあります。

去年の(個人的な)混乱の中であれだけポンと創れたことは今でもちょっと驚くのですが、一年以上経ってみると作品そのものが自分から少し離れたというか、客観的に聴けるようになったような気はしていて、さてそれではと聴いてみると、ナニコレ?みたいな考えにたちまち捉えられてしまいます。去年出した時はほとんど誰からも何の反応もなかったのですが、そりゃそうでしょう…こんなもん個人的過ぎてコメントしづらいよ…と我ながらビックリです。なのですが、Bandcamp上のアナライズを見るとバンドの楽曲よりも遥かに聴かれていて、ダウンロードもして頂いているようで大変ありがたいです。どなたがどう聴いて下さっているのか想像もつきませんが、顔も知らないあなたの優しさに向けて、ありがとうございます。音楽の中に何かを感じてくださっているのなら、尚のこととても嬉しいです。



今回のリリースから変わったことが明確にありまして、それは制作の仕方に関してでした。というのは、『grft』[BABERA01]のカセット版は全て外注していたのに対して、今回の2本はほぼDIYで制作されました。デザインはもちろんのこと、カセットのダビングやスタンプ、ジャケットカードのカットや封入・梱包作業などもやっております。今回やっていないのはジャケットやカードの印刷くらいです。


今回の2作品のカセット版が遅れに遅れた理由のひとつがまさにこれに依拠している次第です。初めはまた外注で…と考えていたのですが、かかる費用などを併せて考えてみると「自分たちでやっちゃった方が面白いんじゃない?」と考え方が転換し、そうなった途端にここはこうしたいあそこはこうしたいが次々と溢れ出し、レーベルのデザインをしてくださっているおきぬさんと共にこうでないああでないを何度も繰り返し…気付いてみれば2021年も終わるじゃないか!と後半はそれなりに焦りながらまとめていきました。その甲斐もあって今回の2作品のフィジカル版は大変愛らしく、自分自身でも非常に納得のいく仕上がりにすることができました。凝っているところ多々ありなので採算はほぼ取れていないようなものですが、作り上げたものが誇らしいので、お金どうこうでなく皆さんが手に取ってくれたら本当に素晴らしいなあと!切に!思います!


このDIY志向は、手伝ってくださった皆様方からクレームが飛び交った『verbena~』での悪評高き作業工程から僕が勝手に掴み取ってしまった楽しさのひとつでもありました。てなもんですから、他の誰かにお願いするのも気が引け、結果おきぬさんと僕のミニマル体制でお届けすることになりました。この転換に対して、思うところもかなりあったと推測していますが、大きな負担を感じながらも常に優しく丁寧に、そして根気強く応じてくださったおきぬさんにこの場を借りて感謝申し上げます。


これまでいくつも制作をしてきた中で、彼女の控えめな人柄とそこに覗く自信のなさを垣間見ることが多々ありました。今回も例に漏れず然りでしたが、それ自体が彼女の素晴らしさと魅力の表れだと思う一方、全く同じ程度の引力でそれが彼女を辛くさせてしまっているように感じることもあります。パーソナリティの話なので如何ともし難いですが、だからこそこうしてカタチになるものを残していくことで彼女の卓越した感性を多くの方に知ってもらえる機会が生まれることがとても嬉しいです。僕が彼女に与えられるであろう、ほんの一欠片の価値はそういったところにあるのかなと、これを書きながら感じました。それが彼女の助けになることがあるならば、尚のこととても喜ばしい限りです。


そもそもどれだけ小さな規模であろうと「レーベル」という枠組みを組んでみよう…と思った発端は、音楽を巡る制作のやり取りや方法を自分たちの活動だけに充てる、自分達だけで輪を完結わせてしまうことがすごく勿体無いと感じた為でした。そうなれば当然のこと自分たちのリリースだけではなく他のアーティストの作品もいずれ…日本国内に留めず世界に開けたリリースを…とは当初から考え続けてきたことでありました。そうして実際に振り返ってみれば、1作目からして自分の作品のようでそうでないようなリミックス盤を発表し、続く『verbena~』は「他人も存在する」コンピ作品となり、3作目で初めてきちんと自分自身の作品を、そして4作目で非常に素晴らしい海外アーティストの作品を…と続けられました。そしてそこには常にたくさんの方が関わってくださっています。本当にありがとうございます。


以前より時折、これはレーベルの形をした遊び方の追求だと言及してきました。即ち、音楽家にはカセットを構成する40分弱のスペースを自由に使ってもらう、その他に作品を構成する要素を他の作家に自由に使ってもらう…そういうそれぞれの「遊び」を結びつける場としてひとつの作品があれば素晴らしいなあと考えています。僕は基本的に場所を用意するだけです。このレーベルの在り方と本質は、相容れない可能性のある他人同士をそれぞれどうやって繋げられ、それぞれどう芽吹かすことが出来るかどうか、有機的なものを発見できるかどうかという「遊び」の追求ということだと思っていますし、これまでの作品はそういうものになってきたなあと実感もしています。微力ながら続けてこれたそれを、これからも続けていこうと思います。マイペースになりますが、あなたも楽しんで頂けるのなら、それを続けていく理由がもう少し明確に肉付けられてきます。兎にも角にもひとりでも多くの人に今回の作品を、あわよくばこれまでの作品も聴いて頂ければ大変嬉しい限りです。よろしくどうぞ。




2020年から続いていたひとつのリリースがようやく節目を迎え、2022年にまで横断していきました。僕としては2021年のやるべきこと / やりたいことの完結という感覚なのですが、単純な年数のカウントだと3年間を横断していることになります。そう考えるとなかなか凄いことだなあとしみじみいたします………そんなことなかなかないですよね。加えてこのリリースは、Late2012のiMacおじいちゃんと成し遂げた最後の共同作業でもありました。Joni Voidとやり取りするメールの多くはiMacおじいちゃんから送信されてきたのであり、彼がいなかったら今回の制作はまるで違う方向へ進んでいたに違いありません。あの透明なカセットはiMacおじいちゃんがこの世界に最後に残していった「アナログな」欠片であったと考えると、それもまた大変感慨深いです。同様にJoni Voidにとっても2021年とは喪失の季節でもありました。僕からは深く触れませんが、彼にもヘヴィな局面が確かにあったし、今もまだ彼はその最中にいるかもしれません。『Nostalgie d'une Porte Ouverte』はこれまでのリリースやこれからのリリースと同様、僕にとっとても誇らしいものになりました。Joni Void + N NAOにとってもそうであれば尚素晴らしいです。しかしそこには幾らかの喪失が隠れています───言葉にできないようなこと、僕たちが言葉にしない限りは誰にも感知されないこと、いくつかのそれはあまりにも些細でか弱く忘れられていくであろうこと。それでもそういったものの端々にある刹那的な死の香りだけは、その内実を忘れてしまったとしても、覚えていたいなと思います。


さて、来年の目標はレーベルのリリースをすることに加えて、今年は静かに動いていたりいなかったりしたバンドのことや制作を具現化出来るように努めることになりそうです。今年はその準備期間であった…と振り返りが出来るように気を引き締めながらこの文章をクローズしようと思います。すっかり東京は寒いですね。皆さまの町もだいぶ寒いでしょうか。11月くらいまでは割と薄着で良かったのにね。まだまだ世の中が混乱していますが、心身ともに健やかにお過ごしください。ライブなりイベントなりなんなり、お会いできる場所を設けられるよう前向きに考えておりますので、その時はまたよろしくお願いいたします。それまでどうかお元気で。良いお年を。来年は寅年ですって。タイガースが優勝したら大盛り上がりなのかな。ちいかわとタイガースのコラボグッズ、可愛くって素敵でしたね。さてさて、それでは。

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